鉄腕アトムの時代の終焉

幼い頃、あるいは青春期に影響を受けた物語は社会に出て多くの経験を積んだのちでも、その人の人生の岐路における判断にとても大きな影響を与えるように思える。

僕らが子供だった頃、手塚治虫鉄腕アトムというアニメを通じて、ウラン、コバルト、という元素が耳慣れた言葉となり、科学技術は生活を豊かにする事を疑う事はなかった。

石油ショックを経て、日本のエネルギー自給の危うさが身にしみた国民は原子力発電にその活路を見出そうとしたし、国策として国民の合意もあり原子力発電はその比率を上げていった。

2011年の東日本大震災での福島原発事故でのメルトダウンに見舞われながら、なぜ東芝の経営者達が原子力発電に注力するという会社の方針を転換できなかったのか?

それは当時の経営者達が若い頃に原子力の夢物語を刷り込まれていたせいなのだと僕は思う

たしかにメルトダウンはあった。でも、被爆で亡くなった人はいないし、この事故の経験をむしろばねとして世界にうって出る、そうあのトップは信じたのだと思う

「企業は経営者の器以上に大きくならない」

その自覚があれば、当時の東芝のトップには別の判断が働いたろうと想像するが、日立の後塵を拝する事に忸怩たる思いがあった社長らは世界規模の原子力発電を手がけることで会社を大きくしようとした。

その日立はリーマン・ショック後2009年3月7900億円もの赤字を出し、子会社から復帰した川村氏のリストラにより復活を果たす。川村氏については以前この日記にも書いたが、その川村氏が東京電力の会長に就任する事が先月末報道された。

東芝はWHを手放し、福島原発廃炉作業はこれからも続く
原子力工学を学ぶ若者はもういないし、あのアトムの時代輝いていた原子力への憧憬は消え去った。

そして、東芝は米国原子力事業のもたらす損害額の見積もりが監査法人と折り合わなかったのか、延期した決算発表に監査法人のお墨付きは得られず、赤字の穴埋めのため半導体メモリ事業を売却する事となった。

売却額は2兆円とも3兆円とも言われ、技術流出を防ぎたい日本政府は中韓企業への売却に難色を示し、合弁相手のウエスタンデジタルからは他企業への売却は契約違反だと釘を刺され、台湾企業のホンハイのトップはソフトバンクの孫さんを巻き込み買収へと意欲を示す。

当の東芝のトップは医療事業をキャノンに売却した功績が買われて社長になった方で、原子力半導体も門外漢。

この交渉の行方はどこに向かうのか?

日本企業、台湾企業、米国企業

政府はそんな色目で企業を仕分けしているけど、結局のとこ、企業の将来を決めるのは、トップの器

誰が何をどう判断するのか?
半導体メモリのような年に数千億円も巨大投資が必要とされる事業においては、冷静な分析力と思い切った決断力がトップには必要とされる。

21世紀に入り、日本の多くのエレクトロニクス企業は何万人もの社員をリストラしてきた

リストラと無縁と思われていた東芝が、粉飾決済、海外事業の失敗、が続き、いまや上場廃止の瀬戸際にある

アトムに憧れ、技術者の道を選んだ若者も多い

今の若い人達にとっての憧れって何だろう?
安全な日本、住みやすい日本

豊かな日本を支える経済力の裏付けは、優れたサービスや商品を実現可能にする技術力なんじゃなかろうか

若者が憧れる物語はいつの時代でも必要だと思う