「ナグネ」最相葉月著。隣の国の事を知りたいあなたのために

ノンフィクションライター最相葉月著。
西武新宿線ホームで偶然知り合った中国人女性具恩恵、彼女を通じて知り得た中国朝鮮族の歴史。

中国人の9割は漢族で、という事はなんとなく知ってはいたけど、日本による韓国併合後、中国東北部満州に140万人もの朝鮮人が移住したという話は知らなかった。日本の敗戦で50万人は朝鮮に引き上げ残った100万人が現在の中国朝鮮族の母体となったという。今34歳になる具恩恵さんはその末裔。

中国人や韓国人が反日になるのは反日教育のせい、国家に都合の良い教育を受けさせられた、その結果だと同僚は言った。なぜなら同様に植民地だった台湾人に親日家が多いのと比べれば明白ではないかと。

東京裁判は事後法で罰せられたから国際法違反
植民地政策をやったのは西欧諸国に遅れて近代化をした日本が、その背中を追った結果
A級戦犯という呼び方は罪の大小を指すのではなくただの分類に過ぎない
だから日本に非はないと

理屈から言えばそれらの説明は正しいのかも知れないけど、じゃ、あの戦争の責任は誰にあったの?
という問いに明確に答えられる人は少ないのではなかろうか?

原爆反対、戦争反対、と言ってみた所で、あの戦争がなぜ起きたのか。それをちゃんと説明できないと、未来の平和への処方箋は見えては来ない

この本を読んで、ああ、つくづく、隣国のことを自分は何も知らないのだなと思った。

植民地支配を謝る、謝らない、それ以前に彼らのことを全然知らない。

例えば、水豊ダム
戦前に計画され朝鮮総督府満州国により鴨緑江に作られた当時世界一の大きさの発電用ダム。建造には間組が関わり発電機は東芝製。このダム建設により7万人の住人が移住を余儀なくされ、具恩恵の祖父らも満州への移住を強制されたのだとか。こうして住み慣れた土地を追われ極寒の地に移住させられた彼らが日本人に良い感情を持つはずはない、と著者は言う。

しかし、一方で、この巨大ダムによる作り出された電気が北朝鮮の発展を支えた事は間違いなく、そのことは、かのくにの国章にこのダムが紋様として記されている事からも推し量ることができる

この一例からも分かるように、私達日本人は、戦前戦後と中国や朝鮮と深い関わりを持っていた。

この書の中身を紹介するのは容易ではない
膨大な調査に裏付けられた歴史をめぐる記述
友人である中国人女性具恩恵の目を通して見た日本

現実にそくし、かつ歴史を網羅した、中国と朝鮮を理解する本、そして、その事は私達日本人を理解する事でもある、という事

新書版なので、厚みはそれほどでもないのに中身が濃い

お隣さんの事を知りたい人にお勧めしたい、一冊でした

コメント