ハイスピードカメラで浮かび上がる日常の物語

写真家、Adam Magyar氏の作品、ハイスピードカメラがとらえた新宿駅で電車を待つ人の彫像
https://vimeo.com/77489382

この映像を見て、何を感じますか?

上京して始めて山手線に乗った時、向かい合う乗客が視線が重ならぬよう気を配りつつ、一定の距離感を保ちながら一つの箱に共存している事に、なぜこの人達は他人に無関心でいられるのだろうと不思議な思いがした
この動画にあの時の思いが呼び起こされた。

一日に何十万人もの乗降客のいる都心では、群衆はひとつの塊となって、調和を乱さぬよう行動する事が求められる。そこでは個性を抑えて、自らもまたラッシュの人の流れを構成する一粒として埋没している

ハイスピードカメラというのは普通のカメラの10倍以上のシャッタースピードで動画撮影が可能なカメラ。イメージセンサと呼ばれる光を電気信号に変える技術の進化で、いづれスマホでもこんな画像は撮れるようになるだろう

ホームにいるこの人達をこのスピードで眺めていると、ひとりひとりがどんな物語を持っているのだろうと興味が湧き、勝手に想像してしまう

大勢の人々が行き交う都会で、ホームに立つひとひとりに関心を持ってしまったら大変だ。普段はそんな関心はしまっておくしかない

都会での暮らしはひとりひとりの個性を摩耗させてゆく。街に出ればこんなにも多くの人びとがいるのに、誰一人話しかけられる相手がいなかったら、こんな深い孤独はない

うつむき加減で無表情な隣り合っても言葉を交わすことのないこの映像に、そんな思いが湧いてくる

村上春樹の著書に「アンダーグラウンド」というサリン被害にあった人へのインタビューをまとめた本がある。たまたま、その地下鉄に乗り合わせただけの人なのに、こんなにも多くの物語があるのだなと読んで感じた。

作り物のフィクションより、ひとりひとりが背負うノンフィクションの物語

ハイスピードカメラで切り取られた、まるで彫像のような人々の表情。身構えること無く、ふいに切り取られた表情からは、前を向いて活力を感じさせる人、身にまとった疲れがにじみ出ている人、様々な物語が想像される

人混みに紛れ、流されていく時間を、映像技術の力で、止めてみると、違った世界が見えてくる

そして新宿以外の街、Xidan(北京)、42 Street(ニューヨーク)と対比してみるのもおつ、東京の街の乗客が一番個性を殺して無表情に見えるけど

面白い映像作品だと思いました