『八日目の蝉』 母と成れぬ男達の宿命と母性の物語

エンディングロールで初めて余貴美子が出演してた事を知って、あああの濃い演技してた人だったのねと改めてハードディスクを再再生。ご本人にも間近でお会いしていながら、まったく出演している事に気が付かなかった。

永作博美という女優も、きっと傍にいたら普通の可愛い女性なのだろうけど、あの映画の中では、不倫相手の子ゆえに産む事が叶わなかった我が子の代わりに、その男の子供を誘拐し、愛情を注ぐ母(?)の役を観る者の心を揺さぶる表情で演じていた。

逮捕された誘拐犯から実母に戻された4歳になった女の子。その幼児が大学生となり、自らも不倫で子を宿し、自分の孤独を癒すかのように出産を決意する。その大学生の役を演じていた井上真央も、華のある女優とは思えないが、スクリーンの中での存在感は圧倒的だ。

優れた女優というのは、普段は白いキャンパスのような目立たぬ存在でも、スクリーンの中では、どのような役柄でも演じ切ってしまう、そういう才能を磨いた人達なのだと思う。

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命を宿し、子を産む、自らの体の一部が別の生命として、生を受ける。
実子を誘拐され、戻った後も繋がりの修復に戸惑う母親の困惑
男に説得され小さな命を絶たざるを得なかった女の悲しみ
誘拐犯から愛情を注がれ育ち、憎む気持ちになんかなれなかったのに、その気持ちを心の奥に封じ込めていた女性

「母性」が主題として語られるこの物語、子を産み、育てる、という事について、男というのが蚊帳の外、という事も思い知らされる映画ではある。妊娠を聞かされた時の男達の反応。「エンジェルホーム」というあの女性ばかりの集団生活。

「男っていらなくない?」というのもこの映画の一つのテーマなのだと思えるので、きっとこの映画で号泣した男子はいないはず。福岡伸一先生に言わせると、男という性は、できそこないの遺伝子から生まれたとかだし。

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この映画は女優さん達の演技も素敵だが、ラストシーンの舞台となっている瀬戸内海の小島の風景が美しい。ケーブルカーで高台から眺めて港の先の島々の風景。棚田を巡る火の祭り。

日本には、こんな風景もあるのかと、いづれ訪ねてみたいと強く思ったのでした。