映画レビュー「50歳の恋愛白書」

外出先、まとまった時間があいたいので、ふらっと映画館に立ち寄って、あまり期待しないで見た『50歳の恋愛白書』。

年下の男性にひかれて熟年離婚、なんてストーリだったら、陳腐だし、つまんないなと思っていたのだが、完璧な妻として振舞ってきた主人公の娘時代の母親との葛藤とか、心のうちがきちんと描かれていて、思いのほか、引き込まれてしまった映画。

ストーリーは、20年以上歳の離れた夫が仕事からリタイヤしたのを機に、子供二人も巣立ったところで、老人たちばかりが住む街に移住して、夫婦二人の余生を暮らす、そんな引越しの後のホームパーティの場面から始まる。気配りができて、料理が上手で、母としてもベストセラー作家の妻としても完璧に、その役割をこなしてきた彼女、でも、彼女には人に知られていない過去があった。物語はその過去の回想と現実とを交互におり交ぜながら展開する。

ある朝、彼女が目覚め、台所にいくと、壁や床がケーキーを食い散らかした後で汚れていて、戸締りもきちんとしていたのに、何故だろう?といぶかしがる。原因を突き止めるために台所にカメラを設置、そして、そのカメラで撮ったビデオに写っていたのは寝間着姿の彼女自身。抑圧されていた彼女の心が、夢遊病を引き起こしていた。

向精神薬を常用していた彼女の母、その母から逃げ出すように叔母の元へ家出。自堕落な生活をしていた彼女だが、その彼女の純粋さに一目惚れした、のちに夫となる年上の男性と出会う。その男性の妻の悲劇的な死がいつまでもトラウマとなって男性と結婚したのちも付きまとっていた。

そんな過去の話をたどりながら、彼女の今を描くのだが、その話の繋がりが彼女の葛藤を裏付けていて、納得のいくストーリに仕上がっている。親友と浮気する夫、その浮気を知った時の彼女の軽々となった心境。夫の死、15歳年下の男性への恋慕、そして、その恋に理解を示す娘。話は彼女の恋の話に留まらず、母と娘、家族の物語でもある。

「恋はそよ風のようなもの、ふっと訪れては去ってゆく、そして、結婚を持続するのは意思の問題。このお店にいる誰と結婚してもやっていけるわ」、そうレストランで失恋した親友に告げる彼女。そんな台詞も妙に納得がいった。

それにしても、主人公のピッパ・リー(ロビン・ライト・ベン)はシワが美しい女優だ。笑ったり、泣いたり、考えみたら皺というのは積み重ねてきた感情の年輪なのかも知れない。重ねた歳に裏付けられた表情の美しさというのはあるのだなと、この映画を見て感じた。

『50歳の恋愛白書』というタイトルよりは、原題の『The Private Lives of Pippa Lee』の方が、一人の女性の人生の物語、という内容に一致していて、いいと思うが、見て欲しいというターゲット層に訴求するという狙いからはこの邦題にせざるを得ないのかな。というとこがちょっと不満。