1X84 読売、著者インタビュー


http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20090616bk02.htm?from=yolsp

(村上) 事件への憤りは消えないが、地下鉄サリン事件で一番多い8人を殺し逃亡した、林泰男死刑囚のことをもっと多く知りたいと思った。罪を犯す人と犯さない人とを隔てる壁は我々が考えているより薄い。仮説の中に現実があり、現実の中に仮説がある。

→ 『アンダーグランド』という村上春樹地下鉄サリン事件の被害者へのインタビューを収録した本がある。たまたま地下鉄に居合わせただけの人達が、様々な人生を生きている、その人達が事件に遭遇し、犠牲となった。あの本を読んだ時、いつか、この話を題材に書くと思っていた。それが、『1Q84


(村上) 自分のいる世界が、本当の現実世界なのかどうか確信が持てなくなるのは、現代の典型的な心象ではないか。9・11のテロで、ツインタワーが作られた映像のように消滅した。

→  帰宅してニュース映像を見たとき、ハリウッドの映像かと、ほんとうに思った。現場にいった事が無い人達は、いったいどうやって、あの貿易センタービルの崩壊が現実だと認識しているのか、ふと疑問に思うことがある。


(村上) 世界中がカオス化する中で、シンプルな原理主義は確実に力を増している。こんな複雑な状況にあって、自分の頭で物を考えるのはエネルギーが要るから、たいていの人は出来合いの即席言語を借りて自分で考えた気になり、単純化されたぶん、どうしても原理主義に結びつきやすくなる。

→  アフガン戦争を『十字軍の戦い』とブッシュ大統領は言った。単純化した言葉で扇動される現代。


(村上) テーゼやメッセージが、表現しづらい魂の部分をわかりやすく言語化してすぐに心に入り込むものならば、小説家は表現しづらいものの外周を言葉でしっかり固めて作品を作り、丸ごとを読む人に引き渡す。暴力と性が、作品を重ねるにつれて僕にとって大事な問題になってきている。この二つは人の魂の奥に迫るための大事な扉と言っていい。

→  『1Q84』の性描写の多さに抵抗を感じる人もいる、かも知れない。その事の意味をこの一文が説明している。それは魂への扉なのだと。