七瀬ふたたび(テレパス)とオウム真理教(マインドコントロール)

『七瀬ふたたび』がTVドラマで始まったのをきっかけに久しぶりに手に取ったSF小説家族八景』、筒井康隆の七瀬三部作の最初の作品で出版されたのは30年も前のことだけど読んだのは初めて。主人公の七瀬は人の心を読み取る能力を持った超能力者。

他人の思考を読み取るという事がどういう事なのか?

雑然、どろどろ、あるいは空っぽな、そんな心の様相の描写がなかなか面白い。TVドラマの中では他人の思考が、ただ声として聞こえてくるようにしか描かれていないけど、読心のシーンは本の方が想像力をかき立てられる分、リアリティがある。

自分が子供の頃、人の心が読めたらいいよなぁ、なんて思ったことはあるが、ほんとうに読めてしまったら、他人の情念に押しつぶされて、とても仕事なんか手に付かないし、生活できないだろうと思う。


人の心を読むというのはSFの世界の話にすぎないが、人の心を操るというのは現実の話。

身近な例でいえば、マネージメントで部下をやる気にさせるのは一つのマインドコントロールといえると思うし。説得、交渉、いずれもその類ではある。

10数年前に日本を震撼させた事件を起こしたオウム真理教の教祖麻原彰晃ほど、その技術に長けた人物はいなかっただろう。彼は入信者のコンプレックス、競争心、自尊心、虚栄心を巧みに操りつつ、自らは手をだす事無く、研究者を集め、資金を調達して、巨大なサティアンを作り上げ、武器を揃えて警察庁長官を狙撃し、その集団を率いていた。

当時、有名な大学を出た人達がやすやすと洗脳されてしまった事に世間の注目が集まったけど、オウム真理教の幹部の一人であった林郁夫の獄中で書いた手記には、優秀な頭脳と高邁な理想を持った彼がなぜ自ら進んで手を染めてしまったのかが書かれていた。

『七瀬ふたたび』を初めとする一連のSFが描いた夢の世界に子供の頃に触れ、あるいは憧れ、大人になって夢が持てない現実に失望した人達が起こしたのが、あのオウムの事件だったように思える。上祐と学生時代に席を並べた事があるという同僚もいて、同世代の人達が深く関与していたオウムの事件、ひとごとのようには思えなかった。

現実と夢(妄想)とをごっちゃにした人達の起こした事件と総括するのは容易だが、バブルに踊らされることもなく、自分達の理想社会を作り上げるという夢を追って、結果としてのテロ行為(地下鉄サリン)だったのではないか。都心で起きた事件だっただけに地下鉄サリン事件の恐ろしさは忘れられないし、しばらくは電車に乗るときも周囲の人の様子を伺わずにはいられなかった。

夢や希望の無い社会というのはどこかに歪がたまる。オウムの事件はそのことを教えてくれたのだと思う。

P.S.
まぁ、それはそれとして、この株価下落はどこまで続くのやら。一株当たりの純資産を株価が下回るほどの下落。おまけにこの円高。せめて、ここ数ヶ月前から騒がれていた物価上昇を抑えることに円高が寄与してくれれば、まだいいのだが。