書評 『暗号解読』 サイモン・シン著

本書に書かれているのは暗号作成者と暗号解読者との戦いの歴史だ。古くはギリシア時代の軍事通信からインターネットで広く使われているRSA暗号さらに量子暗号といった未来の技術についても取り上げている。暗号解読という言語学と数学との理解を必要とする一般には馴染みの薄い難しい技術を分かりやすく解説もしている。

暗号化技術は私達の生活で身近に使われている。
無線LANのセキュリティのためのWEP、電子マネーのセキュリティ、など等、便利な技術の影に暗号化技術ありといってもいいのではないか。

携帯電話の横に書かれている「3G CDMA」というのはCode Division Multiple Access の略で、文字通り符号化(暗号化)されて多重化された制御方式という意味。携帯電話は電波を使って通信をしているので、傍受するのはとても簡単、だから他人に電波を受信されても読み取られないように暗号化されて通信している。

余談だが昔は警察無線も暗号化されていなかった。警察同士の通信を犯人が傍受していた「グリコ・森永事件」を契機に警察無線のデジタル化への転換が進んだのは今から20年以上前の話だ。

インターネット経由で安全に情報のやり取りをする時に使われるSSLでは公開暗号鍵が使われている。相手に文章を送る時に特定の鍵をかけて文章を送り、受け取った相手はその鍵を使って文章にかかっている鍵をはずし文章を読む。この時に使われる鍵を暗号鍵と呼ぶ。

この公開鍵を作るのに使われているのがRSA暗号、桁数の大きい素数を掛け合わせた数字を公開鍵として使うこの技術、RSAというのは発明者三人の頭文字を取ったものだというのは本書で初めて知った。

暗号化技術というのが人類の歴史においてどんな役割を果たしてきたのか。歴史上の出来事も絡めて技術を紐解く本書はサイエンスに興味のある人にとってワクワクと楽しく読める本だと思う。