「神の子どもたちはみな踊る」 村上春樹著

阪神・淡路大震災の起きた時期を想定して展開する物語の短編集。

レビューにも書いたが、各々の短編集に共通するテーマは人と人とのつながりとは何に依るのかという事だと思う。友人同士、恋人同士、夫婦、惹かれあうという気持ちだけでなく、相手とのコミュニケーションを通して、何かを与え、何かを得るという事がつながりを支える大きな要素という事だろう。

それは困っている時に支えられたり、新しい事に気づかされたり、そんな風に少し元気付けられるという事なのかも知れない。

各短編に共通するテーマは 「人と人とのつながりは与え合えるから?」

『蜂蜜パイ』
大学に来なくなった淳平を訪ねた小夜子が「私はこれまであなたのような友達を持ったことがなかったし、あなたは私にいろんなものを与えてくれるのよ。」ていう言葉があった。彼女としては心の内を素直に話したつもりだったのだが、恋人同士になりそびれた彼にとってはつらい言葉。

淳平が作った熊の物語の中でも「どちらかだけが与えられるというのは、本当の友だちのあり方ではない。僕は山を下りるよ。まさきちくん。」っていう熊のとんちきの台詞。

『UFOが釧路に降りる』
小村さんと離婚した妻は手紙のなかで、優しくてハンサムな夫(小村さん)の中に彼女に与えるべきものが何ひとつないことを別れの理由に挙げていた。

『アイロンのある風景』
茨城の太平洋に面した海岸で、「私ってからっぽなんだよ」と順子が焚き火を見ながら三宅さんにつぶやく。空っぽだから人に何も与えられない、そんな不安が彼女に死を思わせたのだろうか。

タイランド
さつきは三十年間も何を恨み続けたのか、タイを発つ時ニミットにいいかけた話は何だったのか。
さつきは、ノーベル賞級の研究をデトロイトでしていながら、離婚と反日的扱いを機に大学を離れ帰国してしまう。夫との離婚の理由も過去の事件と関係がありそう。