「誰もやめない会社」 デジタル時代に光るアナログの価値

「誰もやめない会社」
片瀬京子、蓬田宏樹 著

デジタル時代に光るアナログの価値

米国にリニアテクノロジーという半導体の会社がある。

30年ほど前、これからはデジタルの時代と誰もが信じて疑わなかった頃に、でも、人との接点は全てアナログ。アナログは永遠になくなる事はないし、デジタルの時代になっても、その重要性は必ずや高まるに違いない。そう信じた人たちがナショナルセミコンダクターという会社を辞めて起こした会社の物語。

従業員4400人、売上14億ドルとIntel等と比べたら規模は小さいけど利益率40%を10年も続けているという優良企業。数は多いけど価格競争を強いられる民生品向けの半導体からは早々に撤退して、医療機器、測定機器、産業機器、といった性能と品質にお金を出してくれる分野に特化。

日本だと、スカイツリーのLED照明用のとして、この会社の製品が使われているとか。

顧客のニーズ調査、技術開発、生産、コスト試算まで、担当する商品については、エンジニア自身が担うのが特徴とか。SoCと呼ばれるデジタル回路てんこ盛りの半導体だと開発に携わるエンジニアは100人を超えるし、それこそIntelのプロセッサなんて何千人という人が開発に携わることになる。

デジタルの設計の世界は自動化が進んだのに対して、アナログの半導体の世界は、今も人手を使ったレイアウト作業の残る職人の力量が必要とされる世界。日本ではロームという京都に本社のある会社が有名で、そういえば、先週の朝日新聞にレイアウトチームのチーフとして女性エンジニアが紹介されていた。

このレイアウトという作業、半導体のマスクパターンを描く仕事なのだが対称性とか適切な線幅とか、綺麗に描かれた方が半導体の性能も良くなるというアートな世界。

この本で紹介されていたアナログ回路屋達は英語では、Linear Design Gurus と呼ぶらしい。Guru(グル)というとオウム真理教の麻原を思い出してしまうけど、たしかにアナログ屋には髭モジャの爺さんや今の時代だとコミュニケーション障害と言われてしまいそうな癖のある人が多かった。

リニアテクノロジーという会社、次に開拓しようという分野は「エナジーハーベスティング」。空中の電磁波をエネルギーに変えて電池がなくても通信ができるような、そんな夢の世界。

なんか、こういう書き方をしてしまうと電池が無くても通信できるって、それって、エスパー、超能力、と思われそうだけど、通信するのにμワットの電力ですむようになれば、それはあながち荒唐無稽な夢物語ともいえない。

原発の先行きが怪しくなってきた昨今、電気を使わずに情報のやりとりができるようになったら、もっとエコで、スマートな世界が開けそう、とアナログの価値を再確認した良書でした