たまには村上春樹でも。「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

幸いにして、「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は「1Q84」ほどの大きな話題に世間ではなっていないようだ

いいことだと思う

村上春樹の作品が暗いので嫌いになったら読まなくていいし、流行っているからって読んでみた所で全然面白くなかった、そう思うのは心が健康な証拠だと思う

僕自身にとってのこの作品は、リアリティのある人物描写と想像を刺激する、物語の設定で、今回も期待を裏切られる事の無い優れた物語だった

人間の証明」「永遠のゼロ」いづれも心に残る作品だったのに、売れっ子になると作家は、より多くの作品を出版社から要求されてそれに答えるためなのか、有名になった後に、より優れた作品を創作できる作家は多くない

TVに出て、講演して、同じネタを人前に何度も披露しているうちに、心の井戸が枯れて、物語が湧き出てこなくなるのだと思う

別に批判するつもりはない

ほとんど人前に出ない村上春樹
その村上春樹の「魂を観みる、魂を書く」と題した講演と「河合隼雄物語賞・学芸賞」創設を記念した公開インタビューが京都大学であったという

ネットでみつけたインタビューの内容を書きならべてみる

「人の本当の姿は見えない部分にあり、小説は見えていない物語を描き出すことが必要だ」

小説を通してそれぞれが持つ物語が共感し合い、深みを増していくもので、心のつながりを作りたい」

「小説家の役割は人々が持つ『物語』のモデルを提供すること。読者がそれを読んで共鳴し、呼応することで、魂のネットワークができていく。それが物語の力」

「自分の作品だからといって全て自分で理解して書いているわけではない」


色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」も面白い物語だった

その物語に秘められた謎、この小説に呼び起こされた自分自身の物語、そういった読後の印象を友人と交わすのは楽しいもの

その楽しさを、魂のネットワークと春樹氏は言っていると思う