形式知と暗黙知

言葉として表す事のできる知識を形式知と呼び、言葉に表せない現場での経験に基づいた知識を暗黙知と呼ぶ。

先週は、スマホを巡る特許紛争で韓国のサムソン電子がアップルに敗れた事が話題となり、台湾のホンハイとの提携が発表が見送られたシャープは株価低迷により銀行による融資が欠かせない状況となった。日本の電機メーカの存在がグローバル市場で存在感を失いつつある、そんな事を感じさせる出来事だった。

昨日の朝日新聞野中郁次郎教授のオピニオン欄での論評によれば、液晶技術のブラックボックス化のために垂直統合型の工場群を作ったシャープは、暗黙知(ノウハウ)を持った技術者を韓国企業に高給で引き抜かれた事によって競争力を削がれたとか。IGZO技術に社運をかけるのなら、カギを握る技術者の処遇を上げないとリストラを機に人材も技術も流出してしまう。

一方で政府は年金受給年齢の引き上げに伴い、企業側に定年の65歳までの延長を義務付ける法案を検討中とか。

グローバル市場で競争力を維持するための実力本位の給与制度と、雇用の延長を両立させる事がきっと企業側には求められていて、その解のひとつは年齢ではなく業務の生み出す価値に応じた給与体系、という事になると思う。

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日本企業と呼ばれているうちは解雇規制が厳しいのに、外資系となった途端、国内にある企業であっても、指名解雇が可能となってしまうのだろうか。昨週、ルネサスエレクトロニクスをKKRという外資ファンドが1000億円で買収すると報道されたが、大企業に勤めて安泰と危機感の無かった勤め人には晴天のへきれき。

「企業の価格と価値とは違う」とはある外資ファンドに勤める知人の言葉。不採算部門を切り捨て余剰人員を減らせば、企業本来の価値が高まり買収価格より高い価格で売却できる、その事をこの一語が示しているようで印象深かった。

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野中教授のオピニオン欄読んで感じたこと

米国のMBAで教えるケーススタディは言ってみれば形式知のエッセンスの伝授の場。その米国式の科学的経営手法を取り入れマニュアル経営に頼った日本企業は直観力を失って飛躍のチャンスを失った。

たとえば、ISO9000のような品質管理手法を進んで取り入れ、管理の効率化とトラブルの未然防止を試みる事が行われてはいるが、文書化にたよる管理手法はいってみれば形式知として明文化される事柄を記録しているだけのこと。

トラブル対策をデータベース化する、とか、マニュアルを整備する、とか、といった取り組みは20年前から取り組まれてはいたものの、そこには自ずと限界があって、経験に裏打ちされた判断力(judgment)は属人的な暗黙知とならざるを得ないと思う。

マニュアルを完備したから、ちゃんと読んでよと言われはするものの、文書は膨大になればなるほど読み手の読解力の低下を招いて、個人の能力向上には役立たない。

形式知を充実させる事によってトラブルの未然防止を防ぎたいと考える管理者はチェックリストを整え、網羅性を高めてミスを防げと言う。元々ミスを発生させないために、現場の人たちの力量を高めようよという現場のリーダーは暗黙知の充実に期待を寄せる。

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形式知」と「暗黙知」、西洋と東洋、ドキュメントとノウハウと、管理と現場、戦略と戦術、この両方の要素をうまく取り入れつつミドルの力を活用せよ、と理解すると野中先生のオピニオンには役立つヒントがありそうだ。

「在宅シェフ」もいいなぁ、等とつぶやいてはみたものの、相変わらず社会との繋がりの中で刺激を受けている自分に、この日記を書きながら気が付いたw。