NHKスペシャル 8月14日 「パール判事は何を問いかけたのか」


日本の戦争を裁いた東京裁判、11人の判事の中で唯一被告人無罪を主張したイ ンドのパール判事についての番組。

彼は日本の戦争が正しかったという事を主張しているのではない。

開戦当時まだ 存在していなかった国際法(平和への罪、人道への罪)によって裁こうとしてい る東京裁判の正当性(事後法の禁止)、そして、植民地獲得のための侵略戦争を続けてきたヨーロ ッパ諸国が同じ理由で戦争を始めた日本を裁くことの矛盾を指摘したのだと思う 。

戦勝国による裁判は初めから結論(有罪)が決まっているのかと思っていたが、現実には判事同士の意見が異なり、オランダのレーリンク判事はインド代表パール判事の意見に同感するようになる。当初裁判の憲章に従わない判事(パール)は辞任せよとまで要求していたイギリス代表パトリック判事は、途中で裁判を中断しようとまで思いつめるが本国から説得され裁判を続ける。

意外に思ったのはマッカーサーがこの裁判には乗り気ではなく、イギリス本国がこの裁判で有罪の判決を出すことに執着した点だ。ナチスを裁いたニュルンベルク裁判の正統性をくつがえされないためにも東京裁判でも同じ罪で有罪の判決が出る事をイギリス政府は望んだ。

結局、イギリスとしては自分たちが行ってきた植民地化のための侵略戦争とは切り離して日本の侵略戦争を裁く事で、自国にとって都合の良い歴史を後世に残す事を意図したのだと思う。

インドというイギリス植民地の下層カースト出身でガンジーに心酔していたパール判事から見れば、イギリスや日本が行った平和を脅かす残虐行為は痛烈に批判されるべき対象にみえた。彼は絶対的な平和主義者だった。

東京裁判で無罪を主張した判事がいたからといって日本の行った戦争がやむを得ず行った自衛戦争であったと結論付けるのは、パール判事の意図した事とは異なる。

自己の信念を貫いたインド人パール判事の事を記憶にとどめておきたいと思った。