『スプートニクの恋人』 村上春樹著

本好きが縁で大学に入ってから知り合った「僕」とすみれ、二人は心を許し語り合える友人だった。すみれは披露宴で知り合った既婚で17歳年上の女性ミュウを好きになる。すみれはミュウの誘いで彼女の会社で働くようになり、二人はワインの買い付けのためブルゴーニュに行き、そこでイギリス人にコテージを紹介され、ギリシアロードス島の近くの小島で過ごす。
そして、ある晩すみれはその島で忽然と姿を消してしまう。

過去のある出来事以来自分の半分を別世界に置いてきてしまったミュウ、ミュウに強く惹かれるすみれ、そしてすみれを愛していながらたどり着けない僕、南欧を舞台に三人の物語が展開される。


本好きが縁で大学に入ってから知り合った「僕」とすみれ、二人は心を許し語り合える友人だった。すみれは披露宴で知り合った既婚で17歳年上の女性ミュウを好きになる。すみれはミュウの誘いで彼女の会社で働くようになり、二人はワインの買い付けのためブルゴーニュに行き、そこでイギリス人にコテージを紹介され、ギリシアロードス島の近くの小島で過ごす。
そして、ある晩すみれはその島で忽然と姿を消してしまう。

過去のある出来事以来自分の半分を別世界に置いてきてしまったミュウ、ミュウに強く惹かれるすみれ、そしてすみれを愛していながらたどり着けない僕、南欧を舞台に三人の物語が展開される。

    • この物語の登場人物の行動と思考を理解する上では、幼少期における家族との関わりあいが重要な意味を持っているように思える。印象に残った事柄を拾い上げてみる。。。
    • ミュウの場合

両親が韓国人であるミュウは幼い時から日本に住み韓国語が話せないにもかかわらず、両親からは外国人である事を忘れるなと言われて育つ。韓国の故郷に建てられた父親の銅像は幼いミュウにとってはなんの感慨もない。

彼女はピアノに成長過程の全てを犠牲にして捧げる。音楽の勉強のためフランスに来た彼女は自分よりテクニックの劣るピアニストが聴衆の心を掴んでいる事に驚く。そして、外国人として育てられ、子供の時から自律的な生き方をしてきた自分には温かい心の広がりが欠けている事に気づく。スイスの村で観覧車に夜通し閉じ込められ、その時の事件を契機にミュウはピアノを弾かなくなる。そして、抜け殻となってしまう。

ミュウはなぜすみれを引き寄せていったのか。 彼女が抱えていた過去を語れる唯一の人間である事をミュウは感じ取って、すみれを自分のオフィスに招きいれたのだろう。過去をすみれに語った事で彼女は白髪を染めるのを止め、ありのままの自分の姿で生きる決心がつく。

    • 「僕」の場合

幼い頃から家族の中で孤独感を抱いてきた「僕」はすみれを通して自分を見出す事ができた。「僕」の孤独な性格を形成した一つの要因は母親も姉も料理が嫌いで、子供の時から自分で料理をしていたという生い立ちだろう。料理を囲む団欒は家庭の絆の象徴だから。

「僕」はすみれの質問に答えることで自分という人間の存在をありありと感じることができた。人は人との対話の中で自分を見つけていくという事に「僕」は気づく。「僕」は教え子の「にんじん」に子供の頃の自分の姿を重ね合わせながらこう語る、「大学に入って考え方が変わった。一人でものを考えていると一人分の考え方しかできない」と。

    • すみれの場合

3歳の時母を失ったすみれ。ハンサムな歯科医の彼女の父はその母について適切に伝えるべき言葉を持たない。

思春期の葛藤を経ずに子供の心のまま成人したすみれは、人一倍強い好奇心が強く、将来は小説家になりたいと思っている。彼女から多くの文章が生まれるが、何かが足りない。すみれはミュウに恋を打ち明けるが、ミュウは過去の痛手ゆえ、すみれを受け入れる事ができない。そして、すみれは別世界のもう半分のミュウを求めて失踪する。