「卵と壁」をキーワードにして読み返す「ノルウェイの森」

ノルウェイの森」が出版されたあの頃、その面白さに同意してもらえる友人が周りに誰もいなくて、当時付き合っていた、というか、今のかみさんも、あんな暗い小説読むきにならないと受け入れてもらえなかった

たしかに若いのに自死したりとか精神病院での生活とか、物語の展開の因果関係も入り組んでいて、読者を迷路に迷いませる話の展開は小説を読む楽しみからは少し外れていたのだろう

「蛍」という短編を読むと「ノルウェイの森」が理解しやすくなるよ、というアドバイスを得て、両小説を改めて読んでみた。「蛍」は直子との物語と寮での突撃隊の話を絡めた短編で、ノルウェイの森のはじめの方の章とほぼ重なっている内容だ。

久しぶりに読んだノルウェイの森は、初めて読んだあの頃ほどのインパクトはもう今はなく、自分自身が歳を重ねた分、なんだか遠い青春時代の物語となっていて、心震わせるよりも分析的に解釈をしてしまっていた。

ただ、あの緑というワタナベ君が最後に選んだ女性は自分に率直で飾る所がなく、こういう女性と付き合ったら楽しかろうなとそんな感想を持った。そもそも主人公のワタナベ君だって、ややこしい事考えずに、素直に自分の気持ちと向きあえば、直子や死んだキズキに義理立てする事無く緑と一緒になったんじゃないのかなって。

このノルウェイの森を暗いという感想を持つ人はきっとまともな人生を送ってきた人で、この小説に引き込まれた人というのは屈折した自分の心の投影をこの小説の登場人物達に見出しているから読まずにいられないのだと思う。

今自分がなぜ、こんなことで悩んでいるのか?とか
気がつかない深層心理や過去の実体験がどう心や体を傷つけていいるのか?とか

自分自身の事を知り素直に自分の気持ちと向き合う、というのはなかなか難しいもの

社会的な動物としての私達人類は、社会(壁)から要求されている常識を守りいつのまに縛られていて、気が付かぬうちに素直な心(卵)を損なっている

その壁を人並み以上の努力で越えようとしたのが永沢さんであり、嘘で塗り固めたのがレイコさんの人生を台無しにした少女


卵のままでいる事を望み自死したのがキズキ
卵を見つけられぬまま、心と体が裂けてしまった直子
自分の卵をありのままにさらけ出し、受け入れてくれる人(ワタナベ君)をみつけた緑
壁と卵との相克に悩む事のなかった突撃隊
永沢さんという壁に卵を打ち付け、自死したハツミさん
壁の重圧に適応できずに卵を押しつぶされ自死した緑の姉

登場人物達を卵と壁をキーワードとして読み返すとノルウェイの森という話の主題が見えてくるようだ。青春というのは壁と卵が初めて向き合う時代なのですね

村上春樹の「卵と壁」というスピーチを読み返しながら、ノルウェイの森を、こんな風に総括してみた